猫の耳掃除の必要性

子猫
猫の耳は、耳の中の古い角質や分泌物を自然に外に押し出す浄化作用が備わっています。そのため本来は耳掃除する必要はありません。
とくに立ち耳の猫の場合は、耳の中の通気性を保つことができているため耳垢はたまりにくいといえます。

定期的に耳の状態を確認するようにして、汚れが気になったときだけ耳掃除をおこなうようにしましょう。

頻度

1週間に1回、耳の状態をチェックし、汚れが目立つ状態であれば耳掃除をします。
耳掃除を頻繁におこなったり、汚れていないのに掃除をしたりすると、耳を傷つけてしまうおそれがあるので要注意です。

猫の耳トラブルの多くは外耳炎といわれています。耳をチェックするときは汚れの程度や赤みがないかを見るだけでなく、においの確認、耳を触ると痛がったりかゆがったりしないかの確認もおこない、耳の異常に早く気付いてあげられるようにしましょう。

耳が汚れやすい時期

気温の上がる春から夏、湿度が高くなる梅雨の時期は分泌物が増え、耳垢の量も多くなります。

この時期は、普段は耳掃除を必要としない猫でも耳垢が出やすくなるので、汚れていたらきちんと耳掃除をしてあげてください。

耳のトラブルが起こりやすい猫種

耳が後ろに反っているアメリカンカールは先天的に耳道軟骨が狭くて硬いため、耳垢が多いことがあります。また、垂れ耳のスコティッシュフォールドはその耳の形状から耳垢がたまりやすいです。
しかし、耳垢が多いことが外耳炎などの発症に直接影響することはないため、品種によるトラブルの差はありません。

耳垢が多いからといって過度な耳掃除をおこなうとトラブルが増える可能性があるため、気になるときは、まずはかかりつけの先生にも相談しましょう。

定期的に耳をチェックしよう

高野 航平先生

本来は猫の耳掃除は必要ありませんが、猫の耳の形や季節、アトピー性皮膚炎などの体質によって耳垢が多くなったり、外耳炎が起こりやすくなったりします。
定期的に耳をチェックして、汚れが気になったときだけ耳掃除をしてあげましょう。

耳掃除のやり方3ステップ

猫の耳の中の皮膚は非常にデリケートです。
傷つけてしまうことのないよう、正しい方法を知り、正しい手順で耳掃除をおこないましょう。

用意するもの

  • コットンまたはガーゼ
  • 猫の耳掃除用の洗浄液(イヤークリーナー)
  • ご褒美のおやつ

ステップ1.耳の状態をチェック

まずは、耳垢の色や状態に異常はないか、傷や炎症、悪臭、痛みはないかを確認します。耳を軽く広げるイメージで優しく引っ張り、確認するのは目視できる範囲で構いません。

猫の耳垢は、耳の穴の入り口付近に黒い汚れとして付着しています。あまりに付着している量が多かったり、強いにおいを放っていたりしたら耳の病気の可能性があります。
もし異常が見られた場合は、家では耳掃除をおこなわず、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。

ステップ2.コットン・ガーゼを湿らせる

清潔なコットンやガーゼを水で濡らします。水ではなく、専用の耳洗浄液(イヤークリーナー)を使ってもOKです。イヤークリーナーは耳垢をやわらかくして取れやすくする効果があるほか、消毒効果のある成分が含まれており、においの軽減にもつながります。

水やイヤークリーナーは多くつけすぎると液が垂れてきてしまうため気を付けてください。コットンやガーゼは適度に湿らせて、濡らしすぎた場合は軽く絞って調整をしましょう。

ステップ3.見えている部分だけを優しく拭き取る

耳の中が見えるように軽く耳を引っ張って広げます。耳を後ろへ反り返すように引っ張ると、耳の中の状態が見えやすくなります。強く引っ張りすぎないよう気を付けましょう。
アメリカンカールや垂れ耳のスコティッシュフォールドは耳介軟骨を傷める可能性もあるため、とくに注意してください。

水で濡らしたコットンやガーゼを人差し指に巻き付けて、撫でるようにそっと耳垢を拭き取ります。
そのとき拭き取るのは、耳の穴の入り口付近だけ。耳の奥のほうや細かなところを掃除しようとすると、汚れを奥へ押し込んでしまう可能性があります。
掃除をするのはあくまで見える部分のみ、コットンやガーゼで拭き取れる部分だけにしましょう。

もしこびりついて取れない汚れを見つけた場合は、コットンやガーゼをもう1枚新しく用意し、再度湿らせてから、同じように優しく撫でるように拭き取ってみてください。

猫にストレスをかけないように

高野 航平先生

猫にとって耳は敏感な部分であるため、触られることを嫌がるケースがほとんどです。
まずは、猫が楽な姿勢にしてあげて、頭や耳などを優しく撫でながらリラックスさせましょう。リラックスしたところで優しく撫でるように耳の入り口をコットンやガーゼで拭き取っていきます。このときに、お気に入りのおやつをあげながらだと頑張ってくれるかもしれません。

大きな声であやしたり、強い力で体を押さえつけると猫が怖がってしまいます。もしも嫌がって抵抗した場合は押さえつけたりせずに、すぐに解放してあげてください。
なるべく嫌な思いをさせないことが、継続的な耳掃除への成功の秘訣です。

猫の耳掃除の注意点

綿棒は使用しない

綿棒を使って耳の奥のほうまで掃除をしようとすると、粘膜を傷つけてしまったり、耳垢を奥に押し込んでしまったりする可能性があります。

また、耳掃除中に思いがけず猫が動き、綿棒が誤って奥まで刺さり、ケガや事故につながってしまうおそれも。耳掃除の際はコットンやガーゼを使用しましょう。

見えない部分のお手入れは避ける

猫の耳は外耳道がL字型に折れ曲がっており、耳の奥までは見えない構造をしています。
奥まできれいにしたいからと強く引っ張って広げたり、奥まで拭こうとしたりすると、猫が痛がり、耳掃除がトラウマとなってしまう場合があるので注意してください。

もともと耳の中を触られるのは好きではないという子も多いはず。無理はしないように気を付けましょう。
もし奥のほうが汚れているときは、自宅ではおこなわず動物病院やサロンなどにお願いすることをおすすめします。

耳の洗浄液(イヤークリーナー)を注ぎ込む方法は要注意

耳掃除専用の洗浄液を耳に注ぎ込んで掃除をする方法は、なかなか拭き取れない頑固な耳垢も簡単に取ることができます。
しかし、洗浄液が原因となり、中耳に影響して「傾頸(首が傾いたままの状態になる)」という症状が起きたり、耳の中に傷などがある場合は悪化させてしまったりすることもあります。

また、猫のなかには洗浄液が耳の中に入ってくるという時点で嫌がる子も……。
イヤークリーナーを注ぐ方法はメリットもありますが、直接耳に注ぎ込んで掃除しても問題ないか動物病院で相談してみるとよいでしょう。

悪臭、炎症、黒い耳垢など異常がある場合は病院へ

定期的に耳のチェックをすることで、普段の状態を把握し、いつもと違う状態や変化に早く気付いてあげられます。

週1回のチェック時に、以下のような症状が見られた場合は、外耳炎を発症している、耳ダニが寄生しているなどの可能性があると考えましょう。
  • 耳垢が増えている
  • 耳がくさい
  • 耳を頻繁にかいている
  • 耳の穴の中や周りが赤い、腫れている
  • 耳垢というより黒く乾いた粒が見られる
  • 耳介が腫れている
  • できものがある
  • 耳を触ると痛がる、怒る
このような状態であれば、早めに動物病院を受診してください。

正常な耳垢を知っているとトラブルに気付きやすい

高野 航平先生

猫の外耳道はL字型で人より狭いため綿棒を使って耳掃除をすると、耳垢を奥へ押し込んだり、猫が抵抗することで耳道内を綿棒で傷つけてしまったりする可能性があります。
また、イヤークリーナーを耳道内に注入することで起こるトラブルの発生率が犬と比べて高いため、基本的には入り口まで出てきた耳垢を優しくふき取る程度にしておきましょう。

健康な猫の耳垢は通常、茶色く少しべたついていて、においはありませんが、個体によって耳垢の量やにおいが異なります。まずは愛猫の正常な耳垢を把握することが大切です。

耳垢は、耳道をコーティングして保護するワックスのような役目をもっているので、過度に取り除きすぎるとかえって炎症などが起こる可能性があります。
本来は積極的な耳掃除は必要としないことが多いですが、耳のトラブルの早期発見のためにも定期的な耳のチェックは欠かさずおこない、いつもと違うと感じたらまずは動物病院にご相談ください。

耳掃除を嫌がるときの対処法

耳を触られることに慣れさせる

耳掃除が嫌なのではなく、そもそも耳を触られることを嫌がっている可能性があります。

ブラッシングをしながら耳の近くを触ったり、普段のスキンシップのなかで耳を触るようにしたりと、少しずつでよいので耳を触られることに慣れてもらいましょう。
おやつをあげているときに撫でる方法もおすすめです。

リラックスしているときを狙う

抱っこしているときや撫でているときなど、猫がリラックスしている状態のときに耳掃除を済ましてしまう方法もあります。

驚かせないように優しく声をかけながら、時間をかけずに素早く掃除をするのがポイントです。先に掃除グッズの準備をしてから取りかかりましょう。

一旦あきらめて別のタイミングでおこなう

猫が嫌がって掃除をさせてくれないときはあきらめることも大切です。一度中断し、別の機会におこなうようにしましょう。

無理に続けようとするとケガの原因になったり、耳掃除を怖がって今後できなくなってしまったりする可能性もあります。
時間を空けるか、日にちをずらして再度試みましょう。

プロに任せる

嫌がって落ち着く様子がなく、逃げ回って捕まえられないときは、動物病院やトリミングサロンなどプロにお願いするのも一つの方法です。

自宅で耳掃除をできそうにない様子のときに、無理にお手入れしようとすると、過度なストレスを与えてしまいます。信頼関係に悪影響を及ぼしてしまう可能性もあるため気を付けましょう。

また、耳に痛みを感じたり、違和感があったりするなど耳のトラブルを抱えているときも、触られるのを嫌がることがあります。
耳掃除を嫌がるだけでなく、耳を頻繁にかいている、耳がいつもより臭う、というような症状がみられるときは早めに獣医師に相談しましょう。

獣医師に聞いた! 猫の耳掃除についてのQ&A

片方の耳だけによく耳垢がたまっている。病院へ連れて行ったほうがいい?
左右で耳の汚れ具合が異なる場合は、片耳だけに外耳炎が起こっている、あるいは片耳だけ外傷や虫刺されがある可能性が考えらます。
また、片耳の耳道内にポリープや腫瘍ができており、分泌液が増えている場合もありますので、耳掃除をせずに受診をお願いします。
猫の耳掃除でオリーブオイルを使っても問題ない?
耳垢は、皮脂や、ろう状の成分を含むため、オリーブオイルのような油を使用すると溶解して取れやすくなることが期待できます。

しかし、以下のようなトラブルが発生する可能性も考えられます。
・耳垢と混じり合ったオリーブオイルが耳道の奥へ流れこんで耳道を塞いでしまう
・オイルの違和感から猫が気にして耳をかいてしまう
・オリーブオイルを栄養にして微生物が繁殖し、外耳炎のリスクが高くなる
・鼓膜にオイルが付着すると聴覚に異常が起こる

このようなことから、猫の耳掃除にオリーブオイルを使うことは控えるか、耳道内に入らないように気を付けながら、目に見える範囲の汚れをぬぐう程度にしておくのがよいでしょう。
耳を気にしてかいているけど、見た目に大きな問題はない…。そのままにしていても大丈夫?
猫が耳を気にしているけど見た目に異常がなさそうな場合、耳道の奥に異物や腫瘍などがあり、違和感を抱いている可能性があります。また、アレルギー体質の猫は外耳炎を併発しやすいため、耳のほかにも、かゆみや脱毛が見られる場合は要注意です。

見た目には異常がなくとも耳を気にしている場合は、トラブルの初期症状の可能性がありますので、様子を見るのではなく主治医に相談してください。

獣医師からのメッセージ

高野 航平先生

猫はあまり体をベタベタ触られることが得意ではない子も多いため、耳掃除は簡単なことではないのです。子猫のころから耳だけでなく体のあちこちを触って慣らしていきましょう。
大人の子でもスキンシップの時に、顔や頭を撫でながら耳を触って、少しずつステップアップしていきます。最初から耳掃除をするのは難しいので、少しでも耳を触れたらご褒美のおやつも忘れないでくださいね。

耳掃除の前には爪を切っておくこともおすすめです。こまめに爪切りをしておくことで、飼い主さんがケガすることを防ぐだけでなく、猫が耳をかいてひどい傷を負わずに済みます。

耳掃除は耳を清潔に保ちトラブルを減らす効果が期待できる反面、やりすぎると逆に耳を荒らしてしまう可能性も……。赤ちゃんの肌を撫でるように優しく汚れを取るようにしましょうね。

本来、猫に耳掃除は必須ではありませんが、耳の形や体質によってはこまめなケアが必要な子もいます。定期的に耳の様子を確認しながら、その子に合った耳掃除のペースをつかんでいきましょう。

耳のトラブルは外耳炎、ミミダニ、耳道内のポリープや腫瘍、外傷、アレルギー、耳血腫などさまざま。定期的に耳をチェックして異常が見られたときや、猫が耳をかいている、頭を振る、耳を倒している、触ろうとすると逃げるなどいつもと違う行動が見られたときは、まずは動物病院にご相談ください。

まとめ

猫の耳のトラブルを防ぐためには、定期的な耳のチェックも大切です。日ごろから耳の状態を知っておくことで、すぐに異常に気付き、重症化するのを防ぐことができます。
慣れてくると、耳を触られることを気持ちいいと感じてくれる猫も多いです。はじめのうちは、猫が膝の上でくつろいでいるときやスキンシップの最中など、自然な流れで耳を触り慣れてもらいましょう。
愛猫にストレスをかけずに耳掃除をおこなって病気を予防し、愛猫の健康を守ってくださいね。